日本とブロードウェイ、演技の差は?

「日本と海外(ブロードウェイ&ウェストエンド)のミュージカル舞台での演技の違いって何?」「クオリティーでどこに差があると思いますか?」
俳優さんから、こういった質問をよく受けます。私の答えはズバリ一つ。
「リアリティーに溢れているかどうか。」です。
ここでいう「リアリティー」とは、「演者が自分自身そのものを使い演技していること。役を生きていること。」です。
私はNY在住中は年に100本くらいは舞台を見ていました。特にミュージカルの舞台には足繁く通いました。
日本のミュージカル俳優さんの歌とダンス、ブロードウェイに決して負けていません。骨格の違いからくる歌唱やフィジカル面でのハンデを考えたら、日本では十分素晴らしいテクニックで演じていると思います。
でも、残念ながら演技におけるリアリティーには歴然の差があります…。
「日本のミュージカル演技はリアリティーに欠けている。」仮にそうだとしたら、なぜそのような現象が起きるのか?その原因を俳優教育&日本演劇界のシステムの問題…にするのは簡単ですが…。実際それは大きな原因だと思います。しかし、私は演技コーチとして違った視点で考察するようにしています。
私は、「ミュージカルという表現芸術そのものが持つ独特な特徴が目隠しをして、内面のリアリティーの大切さに気付きにくくなってしまう」ことが原因の一つだと考えます。
“ミュージカル演技”が持つ独特な特徴とは?
1.ダンスや歌のテクニックが重視される。
2.アンプリファイド(拡大)された演技スタイルが必要。
3.大きな空間で観客に向けてよりアピールするスタイルの演技を求められる。
4.台詞のやり取りや、台詞そのものがより簡潔で短いものが多い。
5.楽曲やコレオグラフィー(振付)自体に既に役のリアルな感情が表現されている。
これらの特徴のあるミュージカル演技において、俳優が内面にリアリティーをもって演じるのって、そうとう大変です。
歌とダンス、そして「魅せるテクニカルな演技」が出来ていれば十分観客を楽しませることが出来る…という事実に目隠しされて、「内面のリアリティーの大切さ」に気づきづらいんですよね…。俳優さんを責められません。
映像やトレートプレイでの舞台演技では嘘をついていると俳優自身が気持ち悪さを感じるので、内面がおろそかになることはそうありません。日本でもさすがに映像やストレートプレイで大げさな形だけの嘘の演技は散見されませんよね。
映像やストレートプレイでの演技に使用するリアリスティック演技術をそのままただ使用するだけでは解決できない部分があるミュージカルでの演技。俳優さんは大変だと思います。どうすればいいのか迷うと思います。
だからこそ、私は「リアリスティック演技術をミュージカルにどう応用するのか?」を個人的な研究課題とし、一人でも多くの俳優さんがリアリティーに溢れた歌&ダンス&演技を出来るように手助けができたらいいなと思っています。
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