ソロナンバーの立ち上げ②-1 STEP2.歌詞のビート分けと戦法の理解

ソロナンバーの立ち上げ②-1 STEP2.歌詞のビート分けと戦法の理解

さて、前回のソロナンバーの立ち上げ方の概要に続き、今回からいよいよ具体的な手法を解説していきます。

Step2は「歌詞をビート分けし、戦法をあてがう」です。3回に分けて解説します。

まず、2-1は「脚本分析結果例」について。ビートチェンジを見分ける作業には脚本の理解が必要です。方法は既述ですが、ここでは例を使って分析結果を解説していきます。

レ・ミゼラブルのエポニーヌが歌う「オン・マイ・オウン」を題材として見ていきましょう。

エポニーヌ分析結果例

作品のテーマ 社会/政治の腐敗、貧富の差、市民vs特権階級、家族愛、正義とは?、道徳心とは?、欲と金、自由とは?、信仰心とは? etc.
役の大目的 マリウスからの愛情が欲しい、なぜならば、自分とは違う境遇で生きる人への憧れがあり、その人に自分の存在価値を見出してほしいから。
役のシーン目的 強い心を持ち続けたい。

ソロナンバーの目的分析

ミュージカル中のソロナンバーは「自身のつぶやき or 心の声」が表現されていることがほとんどですよね?そういった場合に、役の目的を考えるときには、ストレートプレイのそれとは違うテクニックを要します。相手がいて会話をしていないので、通常のシーン目的を表す時の「私はAさんに○○して欲しい。」という文章構造が成立しません。

そう考えると、「つぶやいている」「嘆いている」「自問自答している」という言葉を目的にしがちですが、既述のシーン目的の導き出し方で説明したように、シーン目的は状況ではなくその裏にある意志のことです。ストレートプレイだとそれが見つけやすいかもしれませんが、ミュージカルの場合、だいぶ細かい考察をしないとシーン目的を持ちびき出すのは難しいかもしれませんね。

ソロナンバー中のシーン目的は、内面の吐露(独り言)の場合、状況説明ではなく、より具体的な意思であるべき。

例)✖ 哀しいから泣きたい。 〇)強い心を持ち続けたい。 

強い心を持ち続けたいと思ってそこに存在している結果として、哀しくなってしまったということですね。

なぜ、歌うときに「目的」が必要なのか?

1.人は誰でも何かそこに存在する理由がる。

つぶやいてるならつぶやいている理由があるはずです。そこを意識することでリアリティーが生まれ、さらに、自分と役をリンクさせる糸口となります。

2.目的がないと、結果優先の形骸的な演技に陥りやすい。

ミュージカルの場合は、曲が感情を表現していますので、そのメロディーラインだけからインスピレーションを得て歌うことが出来てしまいます。「自分の意思がなくとも、役を演じられている気になりがち」です。そうすると、なんとなく役の感情をなぞったり、誰かの真似をしたり、感傷に浸ったり…、そういう演技になってしまいます。感情過多で形骸的な演技はリアリスティック演技理論では御法度です。

オン・マイ・オウンを「哀しんでいる、健気で、淋しそうなエポニーヌ」像で歌うと、演歌になります。津軽海峡に佇む女性…になってしまいそうです…(!?)

エポニーヌの場合・・・

エポニーヌは、「マリウスの愛を勝ち取る為にはいくつもの障壁を乗り越えなければならない。だから、辛いし気弱になる時もある、でも…強い心を持ち、前に進み続けたいから、夜中にひとりパリの街を彷徨い、思いを馳せる」わけです。

脚本分析Step4.で解説したこの部分☞シーン目的とは人物が大目的を達成する為に、各シーンで持っている欲求である。という、大目的とシーン目的の関係性を思い出してみてください。

エポニーヌは「マリウスの愛情を勝ち取る」(大目的)ために、この歌で「強さを持ち続けたい」(シーン目的)という目的で存在している、という論理構造であれば成立しますよね?

では、整理すると…

エポニーヌは、マリウスの愛を勝ち取るために、強さを持ち続けたいから、思いを馳せている(or つぶやいている)。

が、♪オン・マイ・オウンでのシーン目的となります。

この分析結果を前提として、歌詞で語られている内容はどのようにビートに分解できるのか?そのビートごとの戦法は何なのか?を考える方法を次回解説していきますね。

*追記)ここでの分析結果は、あくまで栗原が演技術解説をする際の題材として、便宜上仮定して使用するためのものです。作品&役柄には様々な解釈があり、実際の公演での演出家の意図とは違う場合がありますので、この結果が正解だと述べているわけではありません。ご了承ください。