【ロジカル演出術】 ⑤ 稽古前準備 1.リサーチ[作家について]

【ロジカル演出術】 ⑤  稽古前準備 1.リサーチ[作家について]

演出家がすべき稽古前準備1「リサーチ」の2つ目の項目は「作家について」です。どんなポイントに的を絞ってリサーチをすればいいのかを整理していきます。

  1. 作家のバイオグラフィー
  2. 作家の他の作品

単純にこの2点ですね。多くの演出家にとっては当たり前の作業かと思いますが、「このリサーチがなぜ必要なのか?リサーチをどう生かすか?」がロジカル演出の特徴です。

では、この2つの項目について、何をどうリサーチするのか&そのリサーチの“効能”について見ていきましょう。

1.バイオグラフィー

作家の人生についてリサーチします。生い立ち、プライベート、創作活動におけるビジョンや理念などについて、本やウェブなどの資料で研究します。

私は基本的に以下の3種類の資料を使います。

  • 作家自身が書いた自伝本
  • 他者が作家の人生を検証した伝記本
  • ウェブで語られている一般的な情報

自伝や伝記には、その作家の「社会や人間への視点」が記されています。例えば、アーサー・ミラーの「るつぼ」執筆の裏には1940年代~50年代にアメリカで起きた「赤狩り」に纏わるミラーの“視点”が存在しますし、テネシー・ウィリアムズの育った家庭環境を理解することで「ガラスの動物園」を深く理解するのに役立ちます。

2.作者の他の作品

その作家が書いた他の作品を読んで、作家の作風や共通する視点を研究します。一人の人間から生まれている作品群ですから、何かしらの共通点が浮かび上がってきます。その共通点の理解が、個々の作品の深い理解へと繋がるはずです。共通点のうち注目すべき大きなものの一つはやはり「社会や人間への視点」です。

リサーチの効能

さて、バイオや作品のリサーチを通して浮かび上がる「作家の社会や人間への視点」を理解することで得られる“効能”。そのうちの大きな一つは…

物語や台詞の裏にある「サブテクスト」を理解しやすくなること

です。

俳優さんは「サブテクストを理解して演じなさい。」なんて演出家に言われることも多いのではないのでしょうか?もし、あなたが演出家の場合、俳優を導く際に脚本に隠されたサブテクストを、理路整然と、しかも興味をそそるように魅力的に説明できますか?さらに、そのサブテクストの理解をどう役作りに使うかを助言できますか?入念なリサーチはそれを可能にします。


ここからの話は私見を含む余談です…。

私が最も敬愛する作家エドワード・オールビーの作品は比喩のオンパレードです。台詞の文字面だけを何度読み返しても理解不能な台詞やシーンが数多くあります。しかし、実際はオルビーの作品に不条理で無駄な台詞など一つもありません。表現一つ一つに“裏の”意味があります。私が、オルビーの作品を演出したとき、彼についてのリサーチはとても役に立ちました。

また、私は、ディズニーミュージカル映画&舞台こそはサブテクストの宝庫だと思っています。名作のヒロイン/ヒーローの置かれた境遇や歌の歌詞には比喩が隠されています。ディズニーミュージカルが全世界共通で老若男女に支持されている理由の一つは、「一見単純に見えるかもしれない物語・台詞・歌詞に隠れたサブテクストが様々な境遇の人の心を動かすから」だと思います。

例えば、「レット・イット・ゴー(Let It Go)」や「陽ざしの中へ(Out There)」などのミュージカルナンバーの深い理解は、「カミングアウト」というキーワードなしには考えられません。「ありのままに自由に生きよう~♪」「外に出てみんなと一緒に遊びたいな~♪」なんてだけの能天気な(!?)歌ではないのです。能天気は言い過ぎかな…。比喩なしの理解でも十分繊細な深い歌詞なのは間違いないのですが…。リサーチをすれば、このことに言及している作家のコメントも見つかりますし、それを検証する論評もあります。

エルサやカジモドが性的少数者として描かれているわけではないので、決して、この作品のサブテクストにカミングアウトが含まれているとは言えませんが、サブテクストではなくとも「裏の意図・比喩」としてこれらの曲の詞を書いていると言えるかもしれません。

もし、演出家が/俳優が、これらの検証なしに作品を作り観客に届けたらどうなるか? 作品が届けるテーマの広さを狭めてしまうのではないでしょうか?

もちろん、解釈は人それぞれで、見た人が自由に思うままに受け止めることが出来る、それが表現芸術の良さではあると思うので、断定は良くないです。あくまで、作品に深みを与える為に考慮すべき要素はリサーチから発見できる…というお話です。

以上が、作家についてのリサーチ内容&効能についてでした。

次の記事は、3つ目のリサーチ項目、「過去の上演記録」についてです。